平成三十一年三月十五日
印西市立平賀小学校長 逆井俊彦
昔,ある男が閻魔大王に会いに行き,天国と地獄というのは,どういう世界なのかを聞きました。すると,閻魔大王は,男に天国のようすと地獄のようすをそれぞれ見せてくれました。
最初に,地獄へ行ってみると,そこはちょうど昼食の時間でした。 食卓の両側には,罪人たちが,ずらりと並んでいます。「地獄のことだから,きっと粗末な食事に違いない」と思ってテーブルの上を見ると,なんと,豪華な料理が山盛りにならんでいます。それなのに,罪人たちは,皆,ガリガリにやせこけています。「おかしいぞ」と思って,よく見ると,彼らの手には非常に長い箸が握られていました。恐らく1メートル以上もある長い箸でした。罪人たちは,その長い箸を必死に動かして,ご馳走を自分の口へ入れようとしますが, とても入りません。イライラして,怒りだす者もいます。それどころか,隣の人が箸でつまんだ料理を奪おうとして,醜い争いが始まったのです。
次に,男は,天国へ向かいました。 夕食の時間らしく,食卓に仲良く座っていました。もちろん,豪華な料理が山盛りにならんでいます。「天国の人は,さすがに皆,ふくよかで,肌もつややかだな」と思いながら,ふと箸に目をやると,それは地獄と同じように1メートル以上もあるのです。「いったい,地獄と天国は,どこが違うのだろうか?」と疑問に思いながら,夕食が始まるのをじっと見ていると,その謎が解けました。天国の住人は,長い箸でご馳走をはさむと,「どうぞ」と言って,自分の向こう側の人に食べさせ始めたのです。にっこりほほ笑む相手は,「ありがとうございました。今度は,お返ししますよ。あなたは,何がお好きですか」と,自分にも食べさせてくれました。男は,「なるほど,天国へ行っている人は心掛けが違うわい」と言って感心したという話です。